片付けられない、捨てられない、ささいな物を大量に集めてしまうといったことからゴミ屋敷が生まれます。そのような行動の原因が、精神疾患や脳障害であるケースも多くあります。ここではそれらについて解説していきます。
うつ病
ゴミ屋敷自体が「もがき苦しむ姿」だとして、うつ病の具現化だと解釈する人もいます。ゴミ屋敷の住人は、年齢性別を問わず、生活様式も多岐にわたっているといいます。
仕事や人間関係など、何らかのストレスからゴミを溜めはじめ、蓄積していきます。ゴミ屋敷の住人には、真面目で責任感の強い性格の人が多いといいますが、ゴミを溜め込むようになってからは近所付き合いを避けるようになるといいます。
うつ病などの精神疾患によりゴミ屋敷をつくってしまった人は、絶望感や疎外感、孤独感、虚脱感などを理由に挙げており、簡単に言ってしまってはいけないのですが、寂しさを紛らわすためにゴミを集めているという印象を受けます。
こういった住人の場合、ただ苦情を言う、強制的に片付けるなどの対処法では、無くなっては溜める、のいたちごっことなってしまうようです。
大阪府豊中市では、定期的にボランティアがゴミ屋敷を訪問し、ゴミを片付ける傍らで住人の話し相手になっているという事例があり、ゴミ屋敷改善の成果を上げているということです。
ゴミ屋敷は決してほめられたものではありませんが、周りの人が少しずつの優しさを与えることで、事態が良い方向に進むケースは多いのかも知れないなと感じます。
ADHD(注意欠陥多動性障害)/ADD(注意欠陥障害)
「片付けられない症候群」とも呼ばていれるのが、ADHD/ADDです。どちらも主に遺伝による先天性の脳障害ですが、これが原因で片付けや整理整頓が苦手だと認識されています。
ADHD/ADD患者は特に女性に多く見られるといわれていますが、これは日常生活の中で女性の方が片付け・整理整頓に関わる機会が多いからだそうです。男性にADHD/ADDが少ないわけではなく、目立たないだけ、ということのようですね。
ADHD/ADDの人は、片付け能力がないのではなく低いだけですから、その人にできる範囲での方法を指導すればうまく片付けられるようになるといいます。こちらもうつ病同様に、周囲の人が協力することでゴミ屋敷は改善されるといえそうです。
ためこみ病
使わないものでも捨てることに抵抗を感じ、捨てられずにためこんでしまうという病気です。家をゴミ屋敷にする原因になるうえ、日常生活に支障をきたしても本人の意思ではなかなか捨てられません。ためこみ病の原因や治療法は解明できておらず、無理に撤去してもまたためこんでしまうため、改善するのが難しい病気です。本人にカウンセリングを行ない捨てるように説得するしかありません。
物だけでなく、動物を家にためこんでしまう「動物ためこみ病」も存在します。犬や猫を後先考えずに家に招き入れてしまう症状とされ、数が増え続けた結果、世話をすることが困難になります。段々と高くなるえさ代で、経済的に困るようになり不潔な環境のまま過ごすように。さらに動物が外から持ち込む菌や汚れで環境が悪化していきます。
強迫的ホーディング
強迫的ホーディングとは、物を集めることがやめられない病気のことです。ためこみ症と同じく健康を害するおそれがあり、日常生活を送るのが難しくなります。強迫性ホーディングの人は自分の症状に苦痛を感じますが、それでも収集癖が止まらないため精神的な負担がなくなりません。症状が悪化していくと、火事や害虫からの感染症を起こすリスクが高くなるので、早めの対処が必要です。
発症原因として、家族や友人と死別した際の精神的負担が考えられています。第三者が協力する必要がありますが、強制的な撤去を強要・実行するのは良くありません。精神に負担がかかり続けている状態なので、より負担をかけてしまうことになるからです。治療法としては、カウンセリングや精神安定剤があります。無理に片づけるのではなく、本人と向き合ったうえで処分を進めることが大切です。
認知症
加齢やアルツハイマー病などが原因で、物忘れが激しくなる認知症。自分の行動を忘れるので、何度も同じものを買ってきてしまい、物がたまっていきます。物忘れが激しくなるとゴミ出しの日やゴミを出す行為そのものも忘れてしまうので、結果として家にゴミがたまっていくのです。ゴミのことを認識できずに捨てられなくなることもあるので、家族や近所の助けなどがないとゴミのためこみは止まりません。
認知症は進行すると、収集癖が出るケースもあります。本当は使わないものでも、ゴミ捨て場から持ち帰ってしまう。持ってきた本人は宝物として取っておくので、ゴミのたまるペースは速まってしまいます。もし同居している家族が認知症の場合は、コミュニケーションを増やすことで物への執着心を薄れさせる、医療機関に相談するなどして対策しましょう。離れて暮らしている場合は、業者へ片付けを依頼するのも有効です。
セルフネグレクトとは?
ゴミ屋敷の原因として、ここ数年で耳にする機会が多くなったセルフネグレクトも挙げられます。そもそもセルフネグレクトとは、自分の健康や生活環境が悪化していても、それを改善しようとしない状態のことです。
ネグレクトというと親が子供の養育を放棄したり、虐待して傷つけたりするイメージが思い浮かびますが、セルフネグレクトは別名「自己放任」「自己虐待」と呼ばれています。自分自身の世話を放棄したり、傷めつけたりするような生活を送ることから、社会問題となっている孤独死の原因にもなり得るのです。
特に高齢者は、セルフネグレクトに陥る可能性が高いと言われています。平成24年に内閣府の経済社会総合研究所が発表した調査結果によると、セルフネグレクトの状態にある人は、高齢者だけでも9,381~12,190人いるとのことです。ただでさえ日本は少子高齢化が進んでいるため、現在はさらに増加していると考えられるでしょう。
また、最近は若者のセルフネグレクトも増えていると言われています。実際、20~30代の人がゴミ屋敷に住んでいたり、孤独死したりする事例も起きているため、セルフネグレクトは誰にでも起こり得る問題と言えるでしょう。
セルフネグレクトの原因(病気)
セルフネグレクトの原因は、人によってさまざまです。高齢者だと「認知症」や、「身近な人を亡くした喪失感」が原因になりやすいようです。
特に認知症による判断力の低下は、セルフネグレクトと関連性が深いと言われています。例えば、物を収納しなければいけないのに、その判断ができなくなるため、片付けも滞ってしまうのです。また、高齢者以外でも精神疾患により判断力が低下するケースもあるので、注意しなければなりません。
病気以外だと「人間関係のトラブル」や「身近な人を亡くした喪失感」により、セルフネグレクトに陥る可能性があります。周囲とのコミュニケーションが不足していたり、近しい人の死にショックを受けたりすることで、自暴自棄のような状態になってしまうのです。特に一人暮らしをしている人は、注意が必要でしょう。
他にも「ネット上のコミュニケーション」「核家族化」「貧困問題」なども、セルフネグレクトの原因になります。
セルフネグレクトにならないために
セルフネグレクトに陥っている人は、自分の状況を自覚できていないことが多い上、周りに助けを求めようとしないため、発覚が遅れやすいと言われています。
特に病気を伴わないセルフネグレクトの場合、一見何の問題もなさそうに見える可能性もあるため、家がゴミ屋敷になっていても周囲は気付きにくいのです。孤独死や火災といった深刻な問題に発展してから、実はゴミ屋敷だったと発覚するケースも珍しくありません。
本人から訴えが起こりにくい以上、セルフネグレクトを防ぐには周囲の助けが必要です。しかし、セルフネグレクトは把握自体が難しい上、法律上の問題から行政が介入することも容易ではありません。
そのため、親類や友人など身近な人が気付いてあげること、なおかつ手の差し伸べてあげることが重要となります。個人レベルでの支援が難しいと感じたら、包括支援センターなどに相談してみましょう。